『アラビアの夜の種族』 * 古川 日出男
- 著者:古川 日出男
- タイトル:アラビアの夜の種族
わたしの1ヶ月と少しの間、
そのすべての読書時間をかっさらっていった本。
読む者を惑わし、破滅へと導かせる
『災厄<わざわい>の書』と呼ばれた物語をめぐるお話。
ナポレオンがエジプトに侵攻していく時をベースに
語り手ズームルッドによって毎夜語られる
『災厄<わざわい>の書』の物語が挿入されていく。
ラストに近づくにつれ、
ちりばめられたピースがどんどん形を成していくのがわかる。
怖いくらいに、どんどん。
『アラビアの・・・』の主人公はアイユーブという美青年の執事。
彼は主人のイスマイール・ベイを『災厄の書』を使って
破滅へと導くよう画策する。
その画策にはまったのは、いったい誰?
イスマイール・ベイなのか、わたしなのか。
物語を作ったのは、いったい誰?
ズームルッドなのか、古川日出男なのか。
鏡を幾枚も重ね合わせたように、
そこには無限の世界が広がる。
無限に
物語と現実がリンクする世界が。
電車がカタンと停車した。
顔を上げるとそこはわたしが降りるべき駅。
ドアが開き、生ぬるい雨の香りがいっぱいに流れ込んでくる。
一瞬、全身に鳥肌がたった。
電車が停車する直前、
わたしは『アラビアの夜の種族』の最後のページをめくった後だった。
鳥肌がたったのは
生ぬるい雨のせい?
それとも手の中にあるこの本の・・・。