『倚りかからず』 * 茨木 のり子 | うたかたおもひ

『倚りかからず』 * 茨木 のり子

著者:茨木 のり子
タイトル:倚りかからず

この年になると、

先生人間なんだと知ってしまっている。

先に生まれた人たちは

それはもうみな反面教師として

堂々とその人生を見せてくれてはいるけれど。


説教することはあっても

説教されることはほとんどなくなってしまった。


怒られるってそうそうない。


説教されても、

こころのどっかでヒネクレテイルわたしは、

もう、どっかで素直に助言を受け入れることが出来ずにいる。


このままじゃあ、

一生ヒネクレ者だ。


そうだと、困る。


そんなときに、

絶対的な先生に説教をお願いすることにしている。


茨木のり子さん。


この人には、

一生かなわない

勝手にそう敬ってしまう人


今年の2月

お空の住人になってしまわれたけれど、

先生の言うことは、一生涯こころに留めておきますので、

どうか、どうか、

こんなに情けないわたしを見守ってください。


最近、ずっと雨空

わたしの素行がいい加減なのを見透かされているのかもしれない。

そういう、戒めだな。


ね、先生。


苦しみの日々 哀しみの日々


苦しみの日々

哀しみの日々

それはひとを少しは深くするだろう

わずか5ミリぐらいではあろうけれど


さなかには心臓も凍結

息をするのさえ難しいほどだが

なんとか通り抜けたとき 初めて気付く

あれはみずからを養うに足る時間であったと


少しずつ 少しずつ深くなってゆけば

やがては解るようになるだろう

人の痛みも 石榴のような傷口も

わかったとてどうなるものでもないけれど

      (わからないよりはいいだろう)


苦しみに負けて

哀しみにひしがれて

とげとげのサボテンと化してしまうのは

ごめんである


受けとめるしかない

折々の小さな刺や 病でさえも

はしゃぎや 浮かれのなかには


自己省察の要素は皆無なのだから


(茨木のり子 筑摩書房 「倚りかからず」収録)



はい、先生

今日もお説教、

有難くお受けいたします。